2006年3月15日 大崎正治(國學院大学)
フィリピン先住民に押し寄せつつある「環境」を売り物にした社会的腐敗とそれに抵抗する草の根の人々(先住民)の動きについて、 以下で予備報告をいたします。今後の展開にご注目ください。
私は2006年2月24日から3月5日まで、フィリピンの先住民の集落へ取材に行ってきました。
4-5年前、先住民の住むこの地域の最大規模のNGOがこの国の政府(「環境・開発省」ーまさに「持続的開発」策の申し子と言える名前ですが、以下で述べる経過を見るとなんと皮肉な名前でしょう!)と協同して、この村落の山岳に「植林」の名目で600万ペソ(邦貨1,200万円)の開発プログラムを展開しま したが、実際には植樹をほとんど実施せず、地元村長と結託して収賄(汚職)をしていたのです。この村では無茶な伐採をしないので、実生からの自然生長(二次林)が出来ているので、もともと植林など不要なところだったのです。
ここの先住民は食べものがほとんど自給自足で、土地も共同体所有で、現金経済でなく自然経済が中心でした。私はこの魅力に惹かれて、この村を過去25年余人類学研究をしてきました(拙著『フィリピン国ボントク村』農山漁村文化協会-略称農文協-発行)。
しかし、桃源郷とも言えるこの村にもごくゆっくりとですが近代化が進み、最近になって、村長が「環境対策」という名の開発資金に目をつけて、NGOや役人と結託して、自宅の新築に流用する事態に至ったのです。このプロジェクトには、はじめから地方の役人とNGOが資金の着服をもくろんで村長をたきつけて進めたのです。
これに対して村の若い住民グループが一昨年から訴訟を始め、村や郡(Municipality)における当初の長い孤立に耐えた末、ついに協力を申し出る一部のNGOが隣の州から現れ、その貴重な実態調査を受けて、この植林 計画のウソを完璧に暴露したのです。
フィリピンは、マルコス元大統領以来、「アジア随一の汚職天国」という悪名が高い国ですが、最近は、この村のように一般住民からそれに抵抗するうごきが始まって、次第に頼もしい国になりつつあります。この事件は、小さな村をめぐるささやかな金額の汚職に対する先住民の小さな戦いにすぎませんが、このフィリピンのみならず、すでにNGOが既成の体制と化しつつある日本、ひいては世界全体にとっても大きな意味をもつものと思われます。
私はこの若者の運動と「植林」という名のプロジェクトを実際に見るために訪れましたが、さいわい今回は今泉光司監督が同行してくれました。彼は数年前、この近隣の土地を背景に、フィリピンの有名な俳優と現地採用の役者を使ったドラマ映画『Abong-小さな家』<英語版、日本語版いずれもあり>を製作した人です。
彼はビデオを持って、この村を取り囲む海抜1500-1800mの山々を二日間(大崎はケガをしたため一日だけ)歩いて取材してくれました。そのビデオには、上に述べたウソの植樹プロジェクトを証拠立てる無残な苗床と、実生から自然に生えたたくさんのマツの芽の可憐な姿との対照が見事に写されています。
今泉監督は近日のうちに、彼が取材・編集したビデオを送ってくれるはずです〔すでに4月に製作していただきました〕。よかったら、私の取材ノート(近日作成)とともに、このビデオを見てください。
0コメント